「のと鉄道能登線波並駅」に行ったのは、2018年の冬のことでした。
能登半島のこの地域は天候が変わりやすく、この日もこの駅に着くまでに何度も雨に降られました。
稀に嵐のように雨が降って来ると思えば、急に晴れ晴れとした青空を見せてくれる、気まぐれの恋人のように思えます。
現在のと鉄道は穴水駅が終点になっているのですが、ホームからずっと続いていく線路を見て「もしかしたらこの先にも駅があったんじゃないかなぁ」と不思議に思ったのが、のと鉄道廃線巡りのきっかけでした。
▲穴水駅0番線ホーム
しかし「駅メモ!」(全国の駅を集めることができる位置情報ゲーム)を使っても穴水駅から先の駅が検索できなかったので、
もしかしたら勘違いかもしれないなぁと思いながら、のと鉄道の廃線跡を巡って行きました。
国道沿いを歩いていると、その疑問は答えに変わりました。
不自然に盛り上がった土や、駅の標識、橋の跡・・・
のと鉄道能登線は、本当に存在した鉄道でした。
そこら中に残されたきっかけを探しました。
ずっと会いたかった大切な人に
夢の中で再び会えたかのような嬉しさと、
ここにはもう存在していないのだなぁと
思う寂しさが混在して、
上手く言葉に出来ませんでした。
国道沿いを走っていると降っていた雨が静かになり、太陽が顔を出しました。
ちょうど「波並駅前」と書かれたバス停を見つけ、斜面を見上げました。
そこには駅のホームらしき場所が「おかえり〜」と言うように、佇んでしました。
電車の通っていない波並駅ホームに登ったとき、真っ先に走りました。予感がしたのです。
「きっと綺麗な景色が見える、絶対に見える」と。
雨上がりの湿った冷たい空気の中、ホームの端まで走りました。普段の生活の運動不足が裏目に出てすぐに息を切らしましたが、その景色は潮の香りと一緒にちゃんと見えました。
「なんて美しい海なんだろう・・・」と、
波並駅ホームから見える海を見て思いました。
宝石のような海が広がっていました。
雨の湿った風はゆっくり蒸発していきます。
時の流れのように少しずつ変わって行く空気そのものが
波並駅のように感じられました。
私は心はいっぱいに満たしてくるこの気持ちを
言葉にできるような気がしました。
私はもっと早く生まれたかった。
そして、この鉄道に乗りたかったのだと。
本当は席に揺られながら、この景色の中を、
鉄道と一緒に走りたかったと、
波並駅の冷たい風に黄昏ながら
来るはずもない列車を待つのでした。